一冊の本を手にして夢想する

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机の上に置かれた 山下智道さんの新刊 『薬草活用図鑑 』を、何度も手に取っては閉じ、また開く。読むというより、眺めている時間の方が長い。ページをめくるたびに、どこか落ち着かない気持ちになるのは、きっとこの本が「知らないこと」を教えてくれるからではなく、「見えていなかったこと」を思い出させるからなのだろう。

著者の 山下智道 さんと出会ってから、足元の草の世界は確実に変わった。道ばたに生えている植物は、名前を知らなくても「そこにあるもの」だったのに、今では、香りや味や季節や文化の気配をまとった存在として立ち上がってくる。

そして、この本を手にしたまま園庭に立ったら、何が起きるだろうと夢想する自分がいる。これまで「雑草」と呼んでいたものが、急に食べられるものに見えてくるかもしれない。子どもたちが踏みしめていた草が、薬になったり、お茶になったり、昔の人の暮らしを支えてきた存在だったことに気づくかもしれない。そう考えただけで、いつもの園庭が少しよそよそしく、同時にとても豊かな場所に感じられる。本を読んでいるだけなのに、まだ何も始まっていないのに、園庭の一年が頭の中で動き始めてしまう。

そしてもう一つ、こうした時間は、子どもだけのためのものではない。むしろ、大人の方が変わってしまうのではないかという確信めいたものを感じている。忙しさの中で見落としていた匂い、味、手触り。「管理すべき環境」としてしか見ていなかった場所が、「共に暮らす世界」へと変わる感覚。大人が足元の草に目を留め、立ち止まり、触れてみる。その姿を子どもが見たとき、何かが静かに伝わるはずだ。

一冊の本が、園庭の設計を変えるかもしれない。遊びの内容を変えるかもしれない。
食卓を変えるかもしれない。そして、子どもと自然の距離を、ほんの少し近づけてくれるかもしれない。まだ何も始めていないのに、すでに園庭は以前とは違って見えている。この本を閉じて外に出れば、そこには今までと同じ景色が広がっているはずなのに、きっと同じには見えないだろう。

もしかすると、この本の本当の力は、植物の使い方を教えることではなく、世界の見え方を変えてしまうことなのだ。そしてその変化は、静かに、しかし確実に、子どもたちの未来の風景にも影響していくのだと思う。絶対おススメの一冊です。

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