川をのぞき込む男

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冬場から初春にかけて僕はよく大岡川をのぞき込んでいる。別に何かを落としたわけではない。鳥を探しているのだ。僕が身を乗り出して、川面をじっと見ていると、不思議なことが起こる。通りがかった人が、だいたい同じことを聞いてくるのだ。「何かいるんですか?」そう言いながら、その人も一緒に川をのぞき込む。僕は少し得意げに答える。「カワセミがいるんですよ。」たいていの人は少し驚く・・・「え、ここに?」。そう。ここに。

隣で川をのぞき込んでいた人に枝の上に現れた小さな青い鳥を伝えると「あっ、ほんとだ」と、小さく声をあげる。その瞬間、それまでただの川だった場所が、少しだけ特別な場所になる瞬間でもある。

横浜市南区を流れる大岡川。桜の名所としては有名だけれど、僕は勝手に野鳥観察の穴場だと思っている。青く輝くカワセミ。水辺をちょこちょこと歩くセキレイたち。静かに魚を待つコサギ。群れで泳ぐカルガモ。岩の上で少し不機嫌そうに立つオオバン。桜の季節には人でいっぱいになるこの川が、少し視点を変えるだけで、まるで小さな自然公園のように見えてくる。しかし面白いことに、このことを地元の人が意外と知らない。

僕もそうだった。何十年もこの街に住みながら、鳥を意識して見ていなかった頃は、この川にそんな世界があるとは思ってもいなかった。不思議なもので、一度カワセミを見つけると、川の景色はまるで違って見える。枝の形や、水面の揺れ方や、鳥が止まりそうな場所が、急に意味を持ち始めてくる。「好き」が世界の解像度を上げているのだ。同じ場所でも、見えている世界はずいぶん違う。

先日、「身近」というテーマで研修会を行った。身近とは距離ではなく、関係である。近くにあるだけでは、それはまだ身近とは言えない。でも誰かが「ここに面白いものがありますよ」と教えてくれると、世界は急に近くなる。そんな時間の中で、大岡川は少しずつその人にとっての「身近な川」になっていく。

だから僕は、少しだけ企んでいる。それは、大岡川の野鳥を広めること。大げさなことではなく、ただ、「この川、カワセミいるんですよ」そんな話を、少しずつ周りにしていくだけだ。もし誰かが川沿いを歩いて、「鳥いるかな~」そんなふうに川をのぞき込むようになったら。大岡川は、ただの桜の名所ではなく、この街の人たちの身近な自然になってくれるのではないかなぁと。そして、いろいろな人が川を見ながら「今日、カワセミいるかな?」そんなふうに空や水辺を探すようになったら。それはきっと、とても豊かなことなのだと思う。

八朗園長が大岡川をのぞき込んでいたらもぜひ声をかけてほしい。「何かいるんですか?」と。